PT自動販売機

 

PT自動販売機

『国に借金1062兆円過去最大、一人837万円』を更新。2018年予算97兆7128億円で6年連続過去最高。

毎年、毎年過去最高と繰り返される国家予算。なんとも思わなくなり、「へえー」で終わってしまうから不思議。

『育児ノイローゼか? 母親が生後6ヵ月の子を虐待』片隅に載っている。

少子化、少子化とさわいでいるけど、今の世の中、子供を育てることは大変なことなんだな、と同情する反面、子供が子供を産む、そんな思いも感じていた。

出勤前に新聞を隅から隅まで読むのが習慣になっている僕は、パンを牛乳といっしょに喉に流し込むと、アパートを飛び出し駅に向かった。

今日は朝から企画会議がある。上司の顔色を思い浮かべ、風が吹きすさぶ中をうつむきながら歩く。

駅につき定期券を背広の内ポケットから取り出そうと……ない。しまった! 昨日まで着てた背広、クリーニングに出して定期券は机に入れたままだった。スイカは……ない。小銭は……どこだ、どこだ。ふと、耳をすます……『オギャー、オギャー』赤ん坊の泣き声が聞こえたからだ。泣き声のするほうにゆくっくり近づくと、駅の入口近くにある自動販売機の中からだった。先を争って、あたふたと改札口に向かう人たちは気づかないようだ。

通りすぎようとした人のよさそうなオジサンを追いかけ、

「あの自動販売機の中から赤ん坊の泣き声がするんですよ」自動販売機を指さしやや興奮気味に話した。が、

「ああ、PT自動販売機ね」と、こともなげに答えると行ってしまう。僕は呆気にとられ、何を言ってるんだろうと、あきれながら自動販売機の前まで引き返した。

泣き声のするのは既存の横にある、新しく設置されたほうからだ。英語でポジティブと書いてある。

何だあ、これ! 大型だが商品名も見本もなく押しボタンには、PTと。

押すと……まさか、そんなこと。

妄想を打ち消し、お茶を買おうとしているオバサンがいたので、同じことを言ってみた。「こっちの自動販売機の中から赤ん坊の泣き声がするんですよ」と。

「いいのよ。そっちはPT自動販売機じゃないの」

気の抜けた興味のまるでない声で言うと、変な人といわんばかりに、僕を見る。

らちがあかないので周りを見ると、混みあってる改札口あたりで人の流れを調整している駅員さんがいた。

そばにいき「あのう、自動販売機の中から赤ん坊の泣き声がするんですが?」また同じことを言ったが、

「ああ、いいんですよ。PT自動販売機ですから」そっけなく、さも面倒くさそうに答える。

???????みんなが同じことを言うのは……何故だ?

それからしばらくたったある日。

僕はアパートを出て駅に向かう。

定期券はカバンに入れるようにしていたので取り出すのにとまどっていると、横から声をかけられた。

顔を向けると、怪訝な顔した若い女性が、

「聞こえません? あの自動販売機の中から赤ちゃんの泣く声」

僕は苦笑しながら「いいんですよ。だってPT自動販売機でしょ」

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