(ありゃりゃ、ネガティブムードいっぱいの部屋で、ベッドに横たわってるオレを、見ているオレってナニ?)
「はーい、お待ちどうさま。遅くなりまして。なにしろ多いでしょ、あちこちで戦争が。学習能力ゼロね、人間は。おかげでサービス残業多くて。ブラックなのよう、この業界も。つらいご時世で」
(誰だ? このなれなれしい態度の中年の紳士は)
「どちら様でしょうか?」
「申し遅れました。死神です。名刺をどうぞ」
「『何でもDEATH鑑定団。地球担当主任。死神打世』?……何か? ごようでも」
「おや、まあ。わたしが来たということ、お分かりにならない? 説明しますね。あちらのあなたは、今現在ご臨終なさる最中なの。つまり“死んじゃう°ということになります」
(死んじゃうって? そうか、肺ガンでステージ4を宣告され、医者のいうままに高額な抗がん剤を投与されていたんだ。値上がりしたときタバコやめとけば……トホホ。意思弱いからなー、オレ)
「まあまあ、そう気落ちなさらないで。しっくりしないのは当たり前、こちらのあなたは“魂なりかけ“ということになってるのね。ご理解いただけましたか?」
「はい、残念ながら」
「素直さって、好感度アップよ。それではなりかけ前の行いを発表します。お亡くなりになってからじゃ大変なのよ。異議があったらそのつど質問してね。えーと、蚊〇〇匹、ハエ〇〇匹、シラミ27匹、ノミ30匹、殺害」
「殺害って! 死神さん、大袈裟すぎでは」
「あなた、それは人間の傲慢というもんです。生命はみな尊いのです。豚肉〇〇頭分。牛肉〇頭分。ニワトリ〇〇羽分。食肉系ね、おたく」
「意味が違うと思うのですが、それにワタシ、ベジタリアンじゃありませんし、お肉も食べないと栄養が偏ってしまいます」
「そこですよ、そこ。必要最小限は許されるのよ。取り過ぎのことを言っているんです。いいですか、世界では9人に1人が飢餓に苦しみ、栄養失調で子供たちが6秒に1人亡くなっているのですよ」
「それは知りませんでした」
「それがどうです、この国では給食を残す子供、多いでしょ。食べ物を粗末にすることは、命を粗末にすることと同じだということを、教えてあがなけりゃ。それにプラスして、あちこちの放送局でやってる大食い競争とか、グルメ番組の多いこと」
「番組制作者のことでしょ。ワタシには関係ないことです」
「そうでもないでしょ。おたくもメタボぎみ体に良くないよー。美食は人類を滅ぼしますよ。雑談でした。えー、お魚は、省略。不可抗力の悪意度は、何ですかーこれ。冤罪下しちゃったってのは? 環境汚染度はと……無駄なエネルギー使ってますこと。地球温暖化を知りませんか」
「もういいですよ。減点方式じゃないですか!」
「そうムキになってはいけません。何にどんな度数付けるかということで、どんだけその人間の内面を表現してるかってことです」
「それでどうなるんでしょ、ワタシ」
「ジャストァモメント。合計しますと、ハッピーハッピーおめでとう。天国ですよー。松竹梅の竹天です」
「竹天って! 天国に松竹梅があるんですか?」
「それが死にゆく者の定めっていうものです。地獄はもっと分かれていますよ。このリーフレット、よく読んでおいてくださいね」
「小さな字。生命保険の説明文みたいで見にくいです。この松と竹の違いって?」
「いいとこ突くねーおたく。皆さんそこまで聞いてこないから。ここだけの話ですよ。松天には超特級がそろってるって、書いてあるんです。もちろん女性の方の場合は超イケメンとなります。選り取りのモテモテ。行きたいで笑天。駄洒落でした」
「で、できれば、ぜひ!」
「うーん、おしい。実におしい。あなたもう1点なのよ。良い子の行いが1点足りない」
「そんなー。あおっておいてそれはないでしょ。なんとかなりませんか」
「ムリ、ムリ。閻魔大王との力関係がねえ。民主主義は数ですからねえ。鬼さんたちの投票で。こればかりは」
「そこを曲げて。多数決と民主主義は違うのでは。ワタシそのう……モテたこと、なくて……」
「あなた、そのお年でまだ! 意欲は買いますよーでも、その愛嬌のない鉄仮面みたいなご面相じゃ、そりゃねー。お仕事は、えっ、裁判官。似たようなお仕事ですねえ。さぞ、面白みのない人生だったことでしょう」
「それは死神さん、いいすぎではないでしょうか。いっしょにしないで下さい」
「あっ、自尊心傷つけちゃったかな。しかし、こうしてお顔を拝見してますと、なんかこう、同情の気持ちが、フツフツと湧いてきちゃいます、よ」
「またまた、フツフツって」
「もしもですよ、『天国と生きるチャンス』どっちと聞かれたら、あなたはどうされますか?」
「失礼とは存知ますが、死神さんのおっしゃることいまいち信じられません。そんなSF小説みたいな荒唐無稽なお話。ワタシは生きるチャンスの方を……」
「いいのよー。ではこうしましょう。もう1度あなたに生きるチャンス、与えちゃおうか、なー」
「それって?」
「ジャジャジャーン。ものすごーい、とっておきのサプライズな・の・よ」
「じささないで教えて下さい」
「聞いたこおをとありませんか? 冷凍人間のことを」
「どこかで聞いたような? そうだ、確か現代の医学では治らない病気にかかった人を、治る薬が発明されるまで冷凍しておくとか、そんなことじゃ」
「ピンポーン。実はネ、その企業に頼まれてるのよ。新タイムカプセル型冷凍器が完成したので、誰か候補者いないかってね。でもねえ、その薬が発明されないかもしれないし、そこのとこが……」
「OKですよー、発明されるのは間違いないですから。人類の未来、科学を信じていますよ。死神さん、ぜひワタシにチャレンジさせて下さい」
「アイアイサーのガッテン承知。それではテレポーテーションでマシーンの中に移動しますよ。薬が発明されたら自動的に治され目覚めますからネ。心の準備はいいですか? 呪文を唱えますよ」
「はい」
ーチチンプイプイ。オラは死んじまったダー。
「じゃあネー、また会う日までサヨーナラー」
(どっかで聞いたような、変な呪文)
「死神さん、いろいろありがとうさんでした」
(未来に行けるは楽しみだ。ワクワクしてくるなあ)
☆ ☆
(おーやったー! 蘇った。人類の科学の勝利だ。あれれ、オレ、なんで檻に入れられているんだろう? それになんだコイツラは? 似たような顔して……まるでロボットじゃないか)
《オヤ、珍シイ生キ物ガ見ツカッタミタイダナ。珍獣レポーターガ説明シテル。イッテミヨウ》
《皆サマ、コレガ21世紀初頭ニ地球ヲ支配シテイテ、オロカニモ、ミズカラ滅ンダ、ワタシタチ、アンドロイドヲツクリダシタ人間トイウ生キ物デスヨー》
完