Y線の踏み切り近くで電車を撮ろうと待ち構えていたら
「すみません。国道16号線はどの方向でしょうか?」
親子と思われる父親の方から道を聞かれた。
(いま来た方向なのに)
「いま歩いてこられた方向に300メートルほど戻られるとすぐですよ」指差しながら答えた。
「ありがとうございます。助かります」
頭を下げ引き返して行く。
二人とも何も持たず娘さんは20前後でねずみ色のハーフコートを着てショールを”真知子巻き”にして何とも存在感がない。いわゆる影が薄いという印象だった。
彼女が何となく気になったので後ろ姿を追うと左足を引きずって歩いてる。
と、
百メートルほど行ったところで右に曲がると、消えてしまった。
正に消えたとしか……。
私は電車を撮ることも忘れ誘われるようにその場所に向かった。
そこは電気関係の会社で日曜日が定休日なのか門が閉じられていた。
門の脇にくぐって入れるような扉かあるが鍵が掛かっている。
家に帰っても気になりもしかしてと踏み切り事故を調べたら、昭和○○年あの踏み切りで事故があったとだけ記載されていた。
(幼い頃母親を亡くし父親に育てられた娘さんは集団就職であの会社に入社。ある日、通勤途中に踏み切り事故に、知らせを受けた父親は……)
そんなことあるはすがない、勝手な想像だ。
でも、
父親の野暮ったいジャンパー姿と娘さんの真知子巻き(映画君の名はで流行)といい、時代ズレしていた。